眼瞼下垂症

目次
1眼瞼下垂とは
2症状
3原因
4治療方法
5治療方法の選択

1眼瞼下垂(がんけんかすい)とは

眼瞼下垂とは

眼瞼下垂とは,文字通り眼瞼(上まぶた)が病的に下がっている状態で,まぶたが重い,見えづらい,といった眼の問題だけではなく,それに伴って様々な症状を引き起こします.
瞼縁下垂と皮膚下垂

上まぶたのどの部分が下がっているかで原因や治療方法が変わってきます.一般的には,睫毛に近いまぶたの縁(瞼縁)が下がっている状態を(真の)眼瞼下垂(このホームページでは瞼縁下垂と呼びます)と呼び,まぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋やミュラー筋)や筋肉を動かしている神経(動眼神経や交感神経)に問題があります.

それに対して,上まぶたの皮膚が瞼縁よりも下に垂れて視野を障害している状態は偽姓眼瞼下垂(このホームページでは皮膚下垂と呼びます)と呼ばれ,主にまぶたの皮膚のたるみ(上眼瞼皮膚弛緩)に問題があります.

瞼縁下垂(真の眼瞼下垂)も皮膚下垂(偽姓眼瞼下垂)も視野障害を生じている場合には,眼瞼下垂の保険手術として行われます.)

青い線・点線の部分が下がるのが瞼縁下垂
赤い線の部分が下がるのが皮膚下垂です

先天性と後天性

生まれた頃から認める場合先天性や,年をとって認める場合後天性など,どの年代の方にも起こりえます.

片側側と両側性

片側だけおこる場合と,両側におこる場合があり,両側の場合は気づきにくいこともあります.また,病状が軽い時期は,眉毛をあげてまぶたを開こうとする代償的な動きが加わるため,余計に発見が遅れることがあります.

2眼瞼下垂の症状

視機能の低下

まぶたが重たい開きづらい感じがあります.瞳孔が隠れると,暗く見えたり,特に上方が見えづらくなります.筋肉(上眼瞼挙筋・ミュラー筋)を常に過度に緊張させてまぶたを開くようになるため,目の奥に痛みがある方もいます.

見た目の変化

顔の典型的な特徴は,上の写真の方のように,まぶたの縁(瞼縁)や皮膚が下がって瞳孔を隠したり,代償するために眉毛が上がり額のシワが深くなります.

それに伴い,二重の幅にも変化がみられます.(狭くなる場合,広くなる場合,なくなる場合など下垂の程度によって変化します.)上眼瞼挙筋やその上にある眼窩脂肪が元の位置よりも奥に引き込まれるために,ボリュームが減ってまぶたが窪んでくる事もあります.

初期には,瞼の下垂には自覚症状はなく,額のシワの治療を希望されて受診される方もおられます.そのような患者様にボトックスなどの表情筋を麻痺させる治療を行うと,眉毛を上げることができなくなり,初めて瞼の開きにくさや,重い感じを実感されます.

瞼縁下垂の重症度分類

その他の症状

眼瞼下垂は単なる眼の問題だけでなく様々な症状を併発します.例えば,視野を確保するために,無意識のうちに眉毛をあげたり,頭を後ろにそらしたりする姿勢をとることが多いため,肩凝り頭痛めまい吐き気などを引き起こします.

3眼瞼下垂の原因

瞼縁下垂皮膚下垂
先天的①上眼瞼挙の低形成
②腱膜の可動制限(靱帯による)
❶挙筋腱膜の眼輪筋穿通枝が低形成
❷前葉(皮膚・眼輪筋・皮下脂肪)が厚い
後天的③加齢性に膜劣化
④加齢性に上眼瞼挙の可動域低下
⑤コンタクト(ハードの長期使用)
⑥神経麻痺(動眼神経・交感神経)
⑦炎症
⑧外傷
⑨腫瘍
❸加齢による皮膚皮下組織の菲薄化
❹眉毛の動きを伴った開瞼
❺紫外線による光老化
❻アイメイクや洗顔等の摩擦刺激

原因は1つだけとは限りません.
典型例
生まれつき目が細い一重の人が,10代からハードコンタクトを使用していて,40代頃から瞼が重たくなってきて60代になったら同僚から眠そうだと言われるようになって受診.
受診時,瞼縁下垂と皮膚下垂の両方を認める

瞼縁下垂の原因
 先天的原因① 腱膜可動制限
 後天的原因③ 加齢性膜劣化⑤コンタクト
皮膚下垂の原因
 先天的原因❶挙筋腱膜の眼輪筋穿通枝が低形成
 後天的原因❸加齢性皮膚菲薄化❹眉毛を動かす開瞼

4眼瞼下垂の治療法

①瞼縁下垂の治療
 A開瞼筋群に対する手術→詳細はこちら
  1ミュラー筋短縮
  2挙筋腱膜前転術 
  3挙筋腱膜+ミュラー筋前転術
 B前頭筋吊り上げ手術

皮膚下垂の治療
 1眉毛上皮膚切除
 2眉毛下皮膚切除(一番多い)→詳細こちら
 3重瞼部皮膚切除→詳細こちら

瞼縁下垂の治療

A開瞼筋群の手術
 まぶたを開く筋肉(上眼瞼挙筋(腱膜),ミュラー筋)を瞼板(けんばん)という軟骨様組織に糸で固定する手術を行います.手術中に1〜3のどの方法にするか判断します.

B 前頭筋吊り上げ手術
眉毛を上げる筋肉(前頭筋)と瞼板の間に,自分の組織(大腿筋膜,深側頭筋膜など)・糸・人工物(ゴアテックス)などで橋渡し(移植)をする手術を行います.眉毛をあげることにより,まぶたを開くことができるようになります.

開瞼筋群の動きで術式を決めます
動き良→→→→→→→→→→→悪
A(ミュラー筋→腱膜→両方)→B吊上

瞼縁は下がっているが,まぶたを上げる筋肉の動きが保たれている場合は,A開瞼筋群に対する手術を行います.(原因では②腱膜の可動制限③加齢性に腱膜劣化⑤コンタクトはこのタイプが多いです.)

筋肉の動きが非常に悪く,代償的に眉毛が上がっている場合にはB前頭筋吊り上げ術を行います.(原因では①上眼瞼挙筋の低形成④加齢性に挙筋可動域低下⑥神経麻痺はこのタイプが多いです.)

皮膚下垂の治療

皮膚下垂の治療は,瞼縁より垂れ下がった皮膚の切除により,視野を改善し,まぶたを開ける時の重たさを取り除く目的で行いますが,まぶたの形が変わるため,見た目にも注意して治療を選択します.

皮膚下垂を訴えて受診する中高年の患者では,瞼縁下垂を合併したり,眉毛位置が前頭筋の作用で挙上していたり,逆に皺眉筋や眼輪筋の作用で下降していたりと様々な症状を呈しています.そのため,上まぶただけでなく,上顔面(上まぶた~眉毛~額)を診察し,必要な術式を選択し,ときには複数の術式を組み合わせて治療を行います.

私の手術症例では,眉毛下皮膚切除が7割,重瞼線皮膚切除が2割,眉毛上皮膚切除が1割くらいなので,眉毛下皮膚切除の適応となる患者さんが多いです

5眼瞼下垂の治療法の選択

治療法選択のフローチャート
STEP
瞼縁下垂があるか判断する

瞼縁下垂がなく,皮膚下垂のみの場合はSt3へ.

瞼縁下垂が軽度だが患者さんの訴えが瞼縁下垂>皮膚下垂の場合には瞼縁下垂の手術を行います.

瞼縁下垂が軽度で患者さんの訴えが瞼縁下垂<皮膚下垂の場合にはSt3へ進みます.

STEP
瞼縁下垂の治療を行う

上まぶたの瞼縁が瞳孔を隠す中等症以上の瞼縁下垂合併症例では,瞼縁下垂の手術を先に行います.その際に重瞼部皮膚切除を同時に行うこともできますが,目標位置まで下垂が改善しない可能性もあるため,術前に皮膚の切除量を正確に決められません.私は軽症例を除き瞼縁下垂の手術後6ヶ月以上あけてから,皮膚下垂の手術が必要かどうか判断しています. 

STEP
必要ならば眉毛を挙上する

眉毛が低い患者さんでは,眉毛上皮膚切除前額部リフトを行い眉毛〜上まぶたを挙上します.術後,眉毛位置が正常に改善してから,上まぶたのたるみの程度を診察し,治療方針を検討します.

STEP
ブジーのシミュレーションを行う

上まぶたのたるみの術式選択には,ブジーという針金の様な器具を用いたシミュレーションを行います.鏡で患者さんに確認してもらいながら二重をシミュレーションします.❶二重の形(末広型・平行型等)❷見かけの二重幅❸二重の厚み❹眉毛位置の変化などに注意して確認を行います.

STEP
重瞼部皮膚切除か眉毛下皮膚切除を行う

シミュレーションの二重が気に入った患者さんで,ブジーの位置が瞼板の高さよりも低い場合は皮膚切除しない重瞼術を行います.ブジーの位置が瞼板の高さよりも高い場合は重瞼部皮膚切除を併用した重瞼術を行います.

シミュレーションをした二重が気に入らない患者さんで「一重を二重にしたくない」,「昔の二重のままでいたい」等,重瞼形成が不要な場合は,眉毛下皮膚切除を行います.「一重を二重にしたい」「睫毛内反」「二重に左右差がある」など,重瞼形成を要する患者さんでは,不自然にならない低い位置での重瞼形成と眉毛下皮膚切除を2回に分けて行います.